800キロメートル。BYDが新型SUV「タン8シリーズ」で打ち出した数値だ。300kWのパワートレインと組み合わせたこのフラッグシップSUVは、スペックシート上ではBMW iXやボルボEX90と真っ向から競合する位置づけになる。だが、その数値の背景を知らずに評価することはできない。
BYDが発表した内容
タン8シリーズは、BYDの主力SUVモデル「タン」の大幅刷新版だ。300kW(約400馬力)という出力はデュアルモーター四輪駆動構成を示唆しており、車両重量を考えると十分なパフォーマンスを期待させる。航続距離として謳われる800kmが本当であれば、このクラスの電動SUVとして際立った数値になる。
ただし、この800kmはCLTC(中国軽自動車試験サイクル)による測定値だ。
CLTCとWLTPの差
CLTCは欧州で使われるWLTPや米国のEPA基準と比べて、楽観的な数値が出やすい試験方法として知られている。低い平均速度、緩やかな加速プロファイル、管理された温度環境での試験になるため、実際の走行条件とはかい離が生まれやすい。一般的にCLTC値はWLTP換算で20〜30%ほど高くなる。
800km(CLTC)は、欧州の実走行では580〜660km程度に相当すると見るのが妥当だ。それでも大型SUVとして優秀な数値であることには変わりないが、800kmではない。
プレミアムへの挑戦
タン8シリーズが示すBYDの意図は明確だ。ボリュームゾーンでの競争力を確立した次のステップとして、プレミアムセグメントに進出しようとしている。問題は、このセグメントの消費者がモデルを選ぶ際に重視するのは、スペック以外の要素が多いことだ。ブランドの歴史、ディーラーの体験、ソフトウェアの完成度、そしてリセールバリュー——これらはBYDがまだ欧州市場で積み上げている最中の信頼だ。
タン8シリーズは一つの声明だ。それが市場でどう受け取られるかは、スペック表が答えを出すのではなく、実際のオーナー体験が決める。
