クリーンビューティーには根本的な問題がある。「クリーン」が何を意味するか、誰も合意していないのに、巨大な市場が成り立っているという逆説だ。
米国を含む多くの市場で、「クリーンビューティー」は規制上定義された表現ではない。任意のブランドが、具体的な基準を満たす義務なしに製品にこのラベルを貼ることができる。
本物のクリーンブランドと便乗者
このボイドが二つの動きを生んだ。
一方には、本物の透明性を中心にブランド信頼を構築したブランドがいる。Ilia、Drunk Elephant、True Botanicals——これらは処方を公開し、成分の選択理由を説明し、主張をサードパーティに検証させる。そのことへの投資が信頼を生み、プレミアムを可能にしている。
他方には、「クリーン」をマーケティング用語として使いながら処方を実質的に変えていないブランドがいる。パッケージを緑にし、植物の成分名を大きく表示し、消費者の「ナチュラル=良い」という認識に乗っかる。
「フリーフロム」マーケティングの問題
「パラベンフリー、硫酸塩フリー、シリコーンフリー」の表示はクリーンビューティーの代名詞になった。しかしこの訴求は科学的に誤解を招くことが多い。
パラベン類は数十年にわたり化粧品に使用されてきた防腐剤で、化粧品で通常使用される濃度では安全性が広く確認されている。2004年の研究で乳腺組織にパラベンの痕跡が見つかり懸念が広まったが、その研究手法は後に批判され、米国・EU・日本の規制当局が現在の使用量は安全であると結論付けている。
「フリーフロム」マーケティングが示唆するような「パラベンフリー=より安全」という主張は、現在の科学的コンセンサスによって支持されていない。
日本市場の特殊性
日本の化粧品規制は世界でも厳格な部類に入る。成分表示義務、認定処方外への変更禁止などの枠組みが存在し、消費者の成分リテラシーも高い。
日本でのクリーンビューティーブームは欧米とやや性質が異なる。「オーガニック」や「無添加」への関心は古くからあるが、「無添加」表示そのものが規制変更により整理されつつある。消費者の意識と規制の厳格化が同時進行する中で、科学的根拠に基づいた透明性訴求はより有効なポジションになり得る。
次に来るもの
EU化粧品規制——世界で最も厳格な部類——は、根拠のある主張と効果の科学的実証に向けて進んでいる。この圧力は米国・アジア市場にも波及するだろう。
ブランドにとって、根拠のない「クリーン」マーケティングを続けるより、規制強化を先取りした科学的透明性の確立が持続可能な戦略だ。「クリーン」という言葉が機能しなくなる前に、「透明で科学的に実証された」という立ち位置を確立したブランドが、次の時代に強みを持つ。
