BYDがテスラの年間販売台数を上回った。この事実が示すのは単一企業の成功ではなく、モビリティ産業の地政学的な再編だ。

「安い中国車」という誤読

BYDについて最初に正しておくべきことがある:「低価格の量産EVブランド」という認識は、今や部分的にしか正確ではない。

Seagullのような低価格モデル(中国国内価格:100万円以下)が販売台数を牽引しているのは事実だ。しかし同時にBYDは、Han、Tang、Yangwangブランドを通じてプレミアムセグメントに本格的に参入している。Yangwang U8は世界的に注目されるオフロード性能を持つラグジュアリーSUVとして位置付けられている。

これはかつてのヒュンダイやキアの軌跡と同じパターンだ——低価格から始まり、品質と技術で上位セグメントに参入する。15年後のBYDは現在とは全く異なる価格帯とブランドポジションにいる可能性がある。

欧州と東南アジアでの展開

欧州市場でのBYDは関税の壁に直面しながらも、ノルウェー・オランダ・ドイツでのプレゼンスを拡大している。

より速い展開が東南アジアだ。タイではBYDが2023年から急速にシェアを拡大し、現地生産も開始した。タイを拠点に東南アジア全体へ——この戦略は、日本・欧州ブランドが長年支配してきた東南アジア自動車市場の勢力図を変える可能性がある。

日本市場という特殊ケース

BYDは2023年に日本市場に参入した。現時点での販売台数はごく僅かだ。

日本市場の難しさはよく知られている:国産ブランドへの忠誠心が高く、外国ブランドのシェアは欧米の高級車を除いて限定的だ。EVに対しても日本の消費者は慎重で、充電インフラへの不安、航続距離への懸念、価格プレミアムへの抵抗感がある。

しかしBYDの日本戦略で注目すべきは、乗用車だけでなくバスとトラックへの展開だ。日本各地でBYDの電気バスが公共交通に採用されている実績がある。企業・法人向け電動フリートは、消費者市場よりも迅速に普及する可能性がある。

モビリティ産業の地政学的含意

BYDの台頭は単なる企業の成功ではなく、モビリティ産業の製造・イノベーション拠点の地政学的移行を示している。

電池技術(CATLとBYDが世界の過半数シェア)、電動化ソフトウェア、充電インフラの知的財産——これらを中国企業が握る状況で、日本・欧州・米国の自動車メーカーはどのポジションを取るか。

トヨタのハイブリッド技術という資産と、全固体電池という賭けは、この問いへの日本の回答だ。その回答が正しいかどうかは、2030年代前半に明らかになる。