冬季オリンピックには独特の観客プロファイルがある。夏季大会と比べて高収入層の割合が高く、西欧・北米・日本のオーディエンスが中心だ。スキー、スノーボード、フィギュアスケート——これらの競技の観客は、ブランドの「ラグジュアリー隣接」戦略が最も効果的に機能する層でもある。
だから冬季五輪のマーケティングROIを計算するのは、夏季よりも複雑で興味深い。
モンクレールの判断が正しかった理由
ミラノ・コルティナ2026の最も明確な勝者はモンクレールだ。
理由はシンプルだが深い:地元ブランドであることだ。イタリアのスキーウェアブランドが自国開催の冬季五輪でプレゼンスを高める——これはブランドと文脈の完璧な合致だ。
モンクレールはイタリア選手団の公式アウトウェアを手がけただけでなく、コルティナ・ダンペッツォとミラノの二会場に合わせたアクティベーションを展開した。山岳リゾートの体験と都市のファッションウィークの文脈——この二つを同時に取り込めたブランドはモンクレール以外にない。
日本市場でのエフェクトも無視できない。モンクレールは日本人旅行者に強いブランドで、滋賀・北海道など国内スキーリゾートとの親和性もある。五輪期間中の日本メディア露出が、翌シーズンの国内販売に連鎖する——という計算は合理的だ。
ロシニョールとサロモン:オーガニックな存在感
スポンサーシップへの大規模投資なしに五輪から価値を引き出したのが、ロシニョールとサロモンだ。
両ブランドとも、回転・大回転・滑降種目でのトップ選手の使用実績が映像として世界に流れた。競技映像の中に自然に存在するブランド——これはスポンサードされた露出よりも認知的な信頼性が高い。
「契約で着ている」ではなく「勝つために選んでいる」というメッセージは、パフォーマンスブランドにとって最も価値のある資産だ。スキー専門家コミュニティでのロシニョールへの言及増加は、広告費のかかった露出では再現しにくいタイプのエンゲージメントだ。
テクノロジーブランドのROI疑問
大きなスポンサー費用を払ったテクノロジー系ブランドのROIは、より曖昧だ。
デジタル計時・採点システムのスポンサー、公式放送機材パートナー——こうした「インフラ系」スポンサーシップは、一般視聴者にはほとんど届かない。B2B的な信頼性構築としては意味があるが、消費者向けブランド認知への転換率は低い。
ミラノ・コルティナ2026の視聴者データが出てくる中で、デジタルプラットフォームでの競技中継と従来型TV放送の比率が注目される。TikTokで切り取られるハイライトシーンに映り込むブランドと、スタジアム看板だけのブランド——後者への投資根拠はますます薄くなっている。
LA2028への示唆
2年後のロサンゼルス夏季大会は、冬季とは全く異なるマーケティング環境だ。
オーディエンス規模は圧倒的に大きいが、競合するブランドメッセージも多い。夏季大会の普遍的な視聴者層は、プレミアムブランドが最も効果的に響かせやすい「高収入・文化的関与層」への集中度が冬季より低い。
ミラノ・コルティナで学べる最大の教訓:文脈の適合性がROIの最大の予測因子だ。スポンサー費用の規模ではなく、ブランドのアイデンティティとその大会のDNAが一致しているかどうか——モンクレールがそれを証明した。
日本代表チームが獲得したメダルがどのブランドのウェアと共に記念写真に収まるか——2028年、各ブランドがどのポジションを狙うかが、今から始まっている。
