EU(欧州連合)が今週、GoogleとAppleに対してデジタル市場法(DMA)に基づく正式な要求を突きつけた。対象はAIアシスタントだ。GeminiとSiriが端末に標準搭載され、他のAIサービスに切り替えにくい現状は「競争を阻害している」というのが欧州委員会の主張である。
規制の議論は技術的に見えるが、本質は別のところにある。「デフォルトのAIアシスタント」をどの企業が握るか、という権力の問題だ。
EUが求めているもの
欧州委員会の要求は三点に集約される。第一に、ユーザーが自由にデフォルトのAIアシスタントを変更できること。第二に、サードパーティのAIが同じデバイス機能(センサー、APIへのアクセス)を使えること。第三に、端末メーカーがGoogleやAppleから商業的圧力を受けずに選択できること。
この要求が実現すれば、AIの配信チャネルとしてのスマートフォンの価値を大きく変えることになる。現在、「Hey Siri」や「OK Google」というひと言が、広告収入と購買行動データのバリューチェーンを起動する。EUはそのゲートを開くよう求めているわけだ。
両社が反論する理由
Googleは「すでに選択肢はある」と主張する。ユーザーは他のAIアプリをダウンロードして使えると。Appleはセキュリティを盾にする。サードパーティのアシスタントにシステム深部へのアクセスを許可することはリスクだ、と。
どちらの主張にも一定の合理性がある。しかし、ユーザーの大半はデフォルト設定のまま使い続けるという現実は変わらない。デフォルトは運命だ。そのデフォルトを巡る争いは、単なる機能論争ではなく、AIエコシステムの覇権争いである。
日本への影響
EUの規制がグローバルスタンダードになった前例は多い。GDPRはデータ保護の世界標準を作り、USB-Cへの統一もEU規制なしには実現しなかった。
日本でも、スマートフォン上のAIアシスタントを巡る同様の議論が遠い未来の話ではない。公正取引委員会はすでにプラットフォームビジネスへの監視を強化している。EUの先例が、日本の規制当局に参照点を提供する可能性は高い。
ブランドへの含意
AI規制の戦いが続く中、GoogleとAppleは法的対応コストを払いながら規制への準拠形式を最小化する方向で動くだろう。しかし本質的な問いは残る。ユーザーが自由にAIアシスタントを選べる世界で、どのブランドがそのポジションを獲得するか。
その問いへの答えは、技術力だけでなく、信頼性・プライバシー保護・ユーザー体験のデザインが左右する。規制が扉を開くとすれば、競争はここから始まる。
